保育人材マネジメントにおけるマーケティングの活用(2)保育人材マーケティングの実践方法

保育人材マーケティングの実践方法

前回に引き続き、職員の採用・定着のためにマーケティングの実践について、1.職場環境改善・人事給与制度の見直し、2.情報提供ツールの充実、3.新規採用ルートの開拓・関係者との良好な関係作り、について見ていきます。

なお、ホームページを活用した採用活動については、現在、その重要性が高まっているため、稿を改めて解説します。

1.職場環境改善・人事給与制度の見直し

職員が働きたい、働き続けたいと思う職場や処遇を実現するための職場環境改善・人事給与制度の見直しは、マーケティングの基本である「誰に、何を、どのように」の中では「何を」に当たるものです。

順番から言えば「誰に」から考えるべきかもしれませんが、保育人材マネジメントにおいては「誰に」の部分は既に明確になっています(保育士養成機関の学生や、中途採用の保育士など)。そして、アピールすべき相手が明らかになっている以上、アピールすべき内容の「何を」いかに多く持っているかが重要になります。

学生や中途採用の保育士が、園に期待するものは何でしょうか?

給料や通勤しやすい立地など、期待するものは色々とあるでしょうが、何よりも重視するのが「働きやすい職場である」ということだと思います。

ただ、「働きやすい職場」というのは、人によって捉え方に幅があります。ある人は「休みがとりやすい」とか「定時で帰れる」といった労働条件に関するものであったり、「保育士同士の仲の良さ」や「園長の人柄」など人間関係に関するものを指すこともあります。

大事なことは、これらの要素に優先順位をつけ、園で出来る限りのことをしていくことだと思います。

無理をして高い給料を払っても思うような働きをしてくれない職員もいますし、いくら高い給料で誘っても職場の人間関係が悪ければ退職につながるものです。

そのため、取り組みの優先順位としては、以下の順序が好ましいといえます。

(1)職場の風通しを良くして、お互いにサポートする人間関係・職場風土をつくることを園の方針として掲げ、園長や主任が実践すること

(2)園長・主任と職員の面談の機会や、職員アンケートにより、具体的な要望や不満を把握し、それを解決する方策を検討すること

(3)給与や休暇などの処遇や労働条件について必要な見直しをするとともに、園の経営シミュレーションを行って持続可能な人件費の水準を維持すること

(1)、(2)で人間関係や職場風土に由来する問題を解決し、その上で給与などの条件面の改善を行う順番になります。というのも、職員の採用・定着においては、給与など金銭的な報酬よりも、人間関係や職場の雰囲気などの要素が重視されることが多くの研究結果において示されているからです。

まずは、職員が安心して働くことができる環境を整えて、その上で納得できる処遇をしていくことが必要です。

人事給与制度においては、以下のような取り組みを進めていくことが効果的です。

● 役職や勤続年数に応じた給与体系の整備

● 働きぶりを評価し、昇給や賞与に反映させる人事評価制度

● 模範的な職員に対する表彰制度

● 長期休暇制度の仕組みの導入

園ができることを可能な限り取り入れていくことが、職員の採用・定着における「強み」となります。

2.情報提供ツールの充実

採用・定着における園の「強み」が出来れば、次はそれをどうアピールしていくかを考えていきます。

園のパンフレットやホームページなど、既に様々な情報提供ツールを作成しているかと思いますが、重要なポイントは、職員の採用・定着に効果的なツールとして適切に作成されているか、ということです。

「園のパンフレットには、学生にアピールする保育内容や処遇条件は記載されていますか?」

「採用に特化したパンフレットはつくっていすか?」

「ホームページは就職を希望している人に見てもらうことを想定して作成していますか?」

これらの質問に全て「はい」と答えられる園は少ないと思います。

多くの園で、パンフレットは園全体のものとして1パターンがあるのみで職員採用に特化したものは作成していない、ホームページでは求人情報とは別に職員の生き生きと働いている姿を載せているわけではない、といった園が多いと思います。

せっかく採用・定着を目指す取り組みを行うであれば、それに適した情報提供ツールを準備して、園の「強み」が相手にきちんと伝わるようにすることをお勧めします。

具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。

● 採用に特化した情報を掲載する専用パンフレットを作成し、実習生や養成機関に配布する

● ホームページにおける採用情報を充実させ、雇用条件だけでない情報を掲載する

※ホームページの効果的な運用については次回、詳しく解説します。

● 上記のツールに、職員が生き生きと働いている写真や、先輩メッセージ、3年後・5年後・7年後といった将来のキャリアや給与の提示、等により就職後のイメージが湧きやすいような内容を盛り込む

3.新規採用ルートの開拓・関係者との良好な関係作り

最後に、新規採用ルートの開拓・関係者との良好な関係作りについて見てみます。

これは、マーケティングの基本である「誰に、何を、どのように」の「誰に」当たる部分ですが、従来の「誰に」の内容を見直して、拡大していくことを意味しています。

というのも、少子化の流れの中で深刻化する人手不足から、保育士として働こうと考える若年人口が減っており、養成校の学生減少、就職規模者の減少といった深刻な問題に対応するためには、これまで園が当てにしていた採用ルートのみでは十分な採用ができなくなる事態が生じているためです。

新たな養成校とのパイプづくりや、実習以外にも学生が園に興味を持ってもらう工夫など、「誰に」の対象を広げる取り組みが必要となっています。具体的には、

● 養成校とのパイプづくり:養成校が主催する就職セミナーに参加するのみでなく、教員の研究活動なども参考にして、これまでに関係のなかった養成校にもアプローチをしていく

● 保護者との関係作り:新卒採用する学生については、必要に応じて保護者とも連絡を取り、就職後のサポート体制について説明し、園で働くことについて保護者にも理解を深めてもらい、採用や定着を後押ししてもらう

● 退職した職員への連絡:出産や夫の転勤など、不都合でない理由から退職する職員とは折に触れて連絡を継続し、復帰につなげたり、知り合いを紹介してもらえる関係を保っておく

● 学生・実習生への多様なPR:子ども食堂など園で実施している社会貢献活動などがあれば、学生や実習生にもPRして、園に来所してもらう機会を増やす

などが考えられます。

これらの取り組みを実践していくためには、園長や主任が果たすべき役割を見直して、優先して取り組む業務として着実に行うことができるように、計画的に時間を確保していくことが必要です。是非、検討してみてください!