同一労働同一賃金の実現に向けた動き
6月10日の日経新聞朝刊に「同一労働同一賃金 秋に法案提出 厚労省が報告書」という記事が載りました。安倍内閣の主導する働き方改革の目玉政策として実現に向けた動きが進んでいます。
仮に今年度の臨時国会で法案が成立した場合、2019年度からの制度導入を目指すとしています。
そもそも「同一労働同一賃金」とは、どのような制度なのでしょうか?そして、園の経営や人材マネジメントにどのような影響を及ぼすのでしょうか?
本サイトでは、シリーズ形式にて、同一労働同一賃金の制度に備えて園が取り組むべきことについてまとめていきます。
1回目の今回は、「そもそも『同一労働同一賃金』とは」というテーマで、制度についての理解を深めます。
「同一労働同一賃金」とは
「同一労働同一賃金」制度とは、読んで字のごとく性別や年齢のほか、正職員・非正規職員といった待遇が異なったとしても、同じ仕事をしていれば同じ額の賃金を支払わなければならない制度です。
保育士であれば保育士としての給与水準があり、正規職員でも非正規職員でも時給換算にした場合に同じ給与額が支払われていることが必要になります。調理員など、他の職種でも同様です。
しかし、こういう疑問が湧きます。
たしかに正規の保育士Aさんと非正規の保育士Bさんは、同じクラスを担当しているが、Aさんは書類の作成や行事の企画など、Bさんが行っていない仕事をしている。それなのに支払われる給与が同じだと不公平ではないか?
当然、そう思いますよね。AさんとBさんは、同じ保育士という職種でも、行っている仕事を細かく見た場合に違いがあることが分かります。
制度が求める「同じ仕事をしていれば同じ額の賃金を支払う」の「同じ仕事」とは、保育士や調理員といった「職種」ではなく、「それぞれの職種が行うべき仕事内容のうちのどこまでを実施しているか」を指しています。待遇に違いがあるAさんBさんでも、仕事内容に違いがあれば給与額に違いが生じても構わないことになります。
給与を決定する具体的な仕事内容とは
それでは、給与を決定する具体的な仕事内容とはどういうものでしょうか。保育士の場合は、保育の実践、保育計画の作成、記録と評価の作成、保護者対応、行事の企画と実施、会議や委員会での活動等、園での保育に必要な一連の仕事となります。
そして、この中のどの仕事を受け持っているかにより、給与が決定することになります。
しかし、また疑問が湧きます。
正規の保育士Cさんと、正規の保育士Dさんは、同じ正規の保育士で仕事内容も同じだが、勤続年数の違いから、Cさんの方がDさんより1万円高い給与をもらっている。これは「同一労働同一賃金」に反しているのではないか?
これも「同じ仕事をしていれば同じ額の賃金を支払う」という定義に照らして考えると不適切な事例に思えます。しかし、この点については、日本の給与支払いの慣習を受けて適切とする考えとなっています。
日本の給与制度の慣習とは、勤続年数や年齢といった個人に関する要素を給与支払いの根拠として、「勤続年数や年齢を重ねていれば、仕事をする能力も自然と高まる。能力の高い人に対しては、入社したばかりの人よりも高い給与を支払って当然」という考えをいいます。
ですので、原理原則から言えば、勤続年数の違いで給与に差をつけるのはおかしいということになりますが、日本のこれまでの給与支払いの慣習を受けて、勤続年数や能力の差は認められる制度として作られています。
最大のポイントは常勤と非常勤との差をなくすこと
同一労働同一賃金制度の最大のポイントは、「正規職員と非正規職員が同じ仕事をしているならば同じ給与を支払い、通常は正規と比べて給与額の少ない非正規の待遇を改善していくこと」を目指すことにあります。
先に挙げた具体的な仕事内容を事例として、金額を設定をして考えてみると、
保育士の仕事内容
①保育の実践:時給1,000円
②保育計画の作成および、記録・評価の作成:時給200円
③保護者対応:時給100円
④行事の企画と実施:時給100円
⑤会議や委員会での活動:時給100円
(1)正規保育士Aさんの仕事と給与額
仕事内容:①+②+③+④+⑤
給与額(時給):1,000円+200円+100円+100円+100円=1,500円
給与額(月給):時給1,500円×8時間×21日=252,000円
(2)非正規保育士Bさんの仕事と時給
仕事内容:①のみ
給与額(時給):1,000円
給与額(月給):時給1,000円×1日8時間勤務×週4日×4週間=128,000円
上記のように仕事内容を明確にして、Aさん、Bさんにそれぞれの金額を支払えば問題はないということになります。
国が目指す方向性について
以上では、制度の原則的理解に基づいた考え方を整理しました。では、国が目指す制度の具体的な方向性はどのようになっているのでしょうか。次回は、昨年の12月に厚労省から出された「同一労働同一賃金ガイドライン案」について見てみます。