保育人材マネジメントに必要不可欠な「マーケティングの視点」
保育士の採用が厳しさを増しています。また、採用後の定着に課題を抱える保育園も多く、保育人材マネジメントにおいて、「採用・定着」というテーマが非常に大きなウェイトを占めるようになっています。
そこで、これからの保育士の採用・定着において必要不可欠になってくるのが「マーケティングの視点」です。
短大や専門学校などの学生が何を希望して就職し、どのような職場であれば働き続けたいと思うのか。保育士を「職員」という視点でなく、「顧客」という視点でとらえ直して、ニーズを満たす採用活動や定着の仕組みを作っていくことが重要になっています。
本サイトでは、シリーズ形式にて、保育人材マネジメントにおけるマーケティングの活用についてまとめていきます。
1回目の今回は、「マーケティングの理解と人材マネジメントへの応用」について解説します。
マーケティングとは何か
マーケティングの本場はアメリカといわれますが、AMA(アメリカ・マーケティング協会)によると、マーケティングとは以下のように定義されています。
「マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである。」(2007年)
つまり、自らが何かを提供しようとする相手に対して、どのように提供するものの価値を伝え、届けるか、ということに関する一連の取り組みということになります。
分かりやすく言うと、「誰に(who)、何を(what)、どのように(how)」届けるかを考え、実践していくこと、となります。
当たり前のようにも聞こえますが、大事なことは「誰に」という点で対象を明確にし、「何を」という点で自らのアピールポイントを作り上げ、「どのように」という点でPRや関係づくりを着実に行っていくことです。
この3点が明確になっていないとマーケティングは効果を上げません。
保育士の採用・定着というテーマで考えると、例年採用していた保育士養成校からの就職が減っているならば、他の養成校との関係作りを急ぐ必要がありますし、就職を考えている学生が欲しい情報をインターネットやパンフレットなどで適切に提供できているか、などのポイントについて振り返ってみる必要があります。
保育士の定着・採用における具体的なチェックポイントを挙げると以下のようになります。
視点 | チェックポイント | |
---|---|---|
誰に | 1 | 園にマッチする職員像を明確にして、どのような人材を求めているかを発信しているか |
2 | 新卒採用の学生と中途採用の経験者で提供情報や採用ルートを分けて対応しているか | |
3 | 養成機関の教員や学生の保護者などの関係者とも良好な関係作りに励んでいるか | |
何を | 4 | 園に就職した学生の話を聞き、何が当園を選んだきかっけになったかを分析しているか |
5 | 現役の学生が学んでいる保育の動向を把握し、園でも提供できるようにしているか | |
6 | 給与や福利厚生などで他の園より優れている点としてPRできるものを作っているか | |
7 | 評判の良い他の園に関する情報収集を行って、模倣できる点を取り入れているか | |
どのように | 8 | 園で働くイメージが湧くようなパンフレットやホームページを作成し、最新情報に更新している。 |
9 | 実習では、「指導」と「褒める」をメリハリをつけて行い、就職する気がある人には是非就職して欲しい旨を伝えている | |
10 | 新入職員に対するきめ細やかなフォローを行い、定期的に話を聞く機会を設けている |
職員を「顧客」と捉えるインターナルマーケティングの考え方
マーケティングを活用する際に、踏まえておきたい考え方がもう一つあります。それは、職員を「顧客」と捉えるインターナルマーケティングです。
インターナルマーケティングは「対社内マーケティング」ともいわれますが、組織内部にいる社員も組織の重要な「顧客」を捉えることで、そのニーズを踏まえた処遇や福利厚生の充実、やりがいのある仕事の提供などを通じて、組織への貢献や定着を引き出すことを目的としています。
つまり、保育士を始めとした職員が、園にどのような希望や要望を持っているかを把握し、それを達成していく取り組みをいいます。
具体的には、
● 園長・主任と職員との面談やミーティングにおいて、職員が話しやすい雰囲気をつくり、要望を不満を聞き機会を設けている
● 定期的に職員満足度に関するアンケートを行い、職員の要望や不満を把握している
● 人事評価を通じて、職員一人ひとりの能力や姿勢を評価し、褒めるべき点を褒める一方、育成に向けたアドバイスを行い、園の目指す保育の実践に向けて職員を巻き込むことができている
● 人事給与制度や福利厚生制度について常に見直しを行って、職員の処遇改善と園の健全経営を達成するための計画を作成し、実行に移している
などが挙げられます。
できることから始めることが最大のポイント!
マーケティングというと「いかに商品の売り上げを上げるか」という販売促進を目的とした活動のように思うかもしれませんが、そうではないことが分かったかと思います。
いかに自分が届けたいメッセージを、届けたい人に届けることができるか、そのために知恵を絞っていくことが重要です。
職員の採用・定着でお悩みの保育園においては、マーケティングの基本である「誰に、何を、どのように」の視点から、現在行っている採用・定着の取り組みを見直してみるとよいかと思います。
その上で、職員との面談、給与制度の見直し、採用パンフレット・ホームページの充実など、できることから始めてみることが何よりも重要なポイントといえます。
次回は、「保育人材マーケティングの実践方法」と題して、職場環境改善、情報提供ツールの充実などについて解説していきます。