キャリアや仕事内容の違いを明確化する
国のガイドラインを踏まえた、園での具体的な対応策の1つ目が、「待遇の差につながるキャリアや仕事内容の違い」を明確にすることです。
多くの園でキャリアパスを作成しているかと思いますが、そこでは保育士としての能力や経験年数などに応じた役職や役割、それに基づく給与水準が決められているかと思います。
そこで明確になっている役職や役割が、待遇の差の根拠となっていることが明らかであれば、同一労働同一賃金の点からは何も問題になりません。
例えば、正規職員であるAさんは、その能力や経験をもってクラスリーダーに任命されている。さらには、リーダーとしての心構えや必要な知識を学ぶための研修を受講もしている、ということは明確な根拠になります。
対応が難しいケースとして、新人の正規職員とベテランの非正規職員との間に待遇差がある場合です。
日常的な保育業務はベテランの非正規職員の方が良くこなすことはできますが、新人の正規職員の方が時給換算した場合の給与が高いといった状況を想定してみてください。
この場合、非正規職員が実施していないが新人職員が実施している仕事、例えば会議に参加したり、園の様々な雑務をこなすといった仕事内容を明確にする必要があります。また、法人内の施設間での人事異動の対象になったり、早番・遅番業務といった労働条件の違いがあれば、それも明確にしておきましょう。
重要なことは、正規職員が果たしている様々な役割や仕事内容をキャリアパスや職務分掌の中に明確に位置付けておくことです。
【正規職員としてのキャリアや業務内容の明確化のイメージ】
〇 キャリアパス
課長、主任、副主任、リーダー、クラスリーダーなど、正規職員が就く役職の明確化
〇 職務分掌
係、委員会、会議など、正規職員が果たしている役割の明確化
計画作成、保護者面談、行事の企画と運営など、正規職員が実施する仕事の明確化
〇 労働条件
早番・遅番の有無、人事異動の有無、転勤の有無など、正規職員にかかる労働条件の明確化
基本給の根拠を明確にする
具体的な対策の2つ目が、「給与とりわけ基本給における待遇の差の根拠」を明確にすることです。
例えば、正規職員である保育士の基本給月額が200,000円で、非正規職員である保育士の時給が1,000円とします。
この場合、正規職員の月給を時給に直すと200,000円÷8時間÷21日=1,190円となり、非正規の時給を190円上回ります。
この差が、先ほど見たような役割や仕事内容の違いから発生しているならば、それに基づく基本給の分解が必要となります。
例えば、非正規と同じ保育業務については、時給1,000円×8時間×21日=168,000円分が相当することになります。
また、差額の190円を月給に直した32,000円(190円×8時間×21日)は、正規職員が果たしている役割や、実施する仕事内容に対する支払いということになります。
すなわち、正規職員の月給=保育業務分168,000円+正規職員としての役割・仕事分32,000円=200,000円 という計算ができることが根拠になります。
園における正規職員と非正規職員との時給に差がある場合、正規職員用の基本給表を精査して、上記のような要素に分解した上で、合理的な説明ができるようにしておくことが求められます。
【基本給表の合理的な説明のイメージ】
非正規職員:時給1,100円
正規職員基本給(月額)
1年目 170,000円 ⇒ 時給1,011円(170,000円÷8時間÷21日)で非正規より低いが問題はない。
5年目 190,000円 ⇒ 時給1,130円(190,000円÷8時間÷21日)で非正規より高い。
差額の時給130円(月給21,840円)は、この職員がリーダーをしているため。
※非正規職員の時給を月給換算した184,800円(1,100×8時間×21日)を上回る支給についての説明が必要。
制度の理解と適切な運用をして、法人・園を守る
これまで見てきたように、同一労働同一賃金に適切に対応するためには、キャリアパス・職務分掌の明確化とそれに基づく給与の支給が必要です。
非常に複雑な制度ですが、対応をおろそかにすると、法律違反につながりかねません。
コンプライアンスを遵守し、法人・園を守っていくための制度の理解と適切な運用が求められます。
ライフリッチコンサルティング株式会社では、同一労働同一賃金を視野に入れた人事給与制度の見直しに関するコンサルティングを実施しています。
コンプライアンスを重視しながら、法人・園の経営改善に資する仕組みをご提案します。ご興味のある方は、
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