「同一労働同一賃金ガイドライン案」とは
2016年12月20日に、厚労省が「同一労働同一賃金ガイドライン案」という文書を公表しました。正規雇用労働者と非正規雇用労働者の「不合理な待遇差」を具体的に指摘する内容となっています。
タイトルに(案)という文字がついているのは、さらなる検討を行った上で、正式な制度導入(2019年度を目標)に合わせて確定をしていくことを予定しているからです。以下、本文では「ガイドライン」と記します。
ガイドラインの趣旨
ガイドラインでは、正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間で、「待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理でないのかを示し」ています。
同一労働同一賃金の観点から、基本給や手当において合理的な説明のつかない待遇差がある場合に、その是正を促す内容になっています。客観的に見て待遇差が存在しない場合については、対象としていません。
ガイドラインのポイント(1)基本給
まず、基本給について見てみます。
ガイドラインでは、基本給の支払い方法を以下の4つに分けた上で、それぞれ「問題になる例」と「問題にならない例」を挙げて解説しています。
① 労働者の職業経験・能力に応じて基本給を支給する場合
いわゆる「能力給」により基本給を支払っていて待遇差がある場合に、問題とならない例となる例は以下のようになります。
【問題とならない例】
〇正規職員に対するキャリアコースを設定し、正規職員が職業能力を獲得している。
※保育園のマネジメントに関する研修を受け、チームをまとめる業務をしている等
〇正規職員が管理職になるためのキャリアコースの一環として、一時的に非正規職員と同じ仕事に従事している。
〇非正規職員同士でも、人事異動や転勤の対象となるかにより給与額が異なる。
〇非正規職員同士でも、時間帯や土日祝日かの違いににより給与額がことなる。
【問題となる例】
〇現在の業務に関係のない職業経験を有することによる基本給の差がある。
※異業種から転職した正規職員に対して、過去の経験を基に給与を決め、現在、同じ仕事をしている非正規職員よりも多い金額を払っている等
⇒ 能力給の場合は、キャリアコースが明確に設定されている、従事している仕事に関連した幅広い能力を発揮している、人事異動・転勤の有無など労働条件面での違いがある、といった理由が必要ということです。
② 労働者の業績・成果に応じて支給する場合
「業績・成果給」(保育園ではあまり用いられていませんが)の場合は、以下のようになります。
【問題とならない例】
〇業績・成果に対して、正規職員と同等の比率・金額で非正規職員にも支払いをする場合
〇支給されている給与額に差があるが、業績・成果が未達成の場合のペナルティが課せられている場合
【問題となる例】
〇正規職員と非正規職員の業績・成果目標について、勤務時間等の違いを反映させずに同等の目標を設定して、非正規職員が達成しない場合には支給しない場合
⇒ 業績・成果給の場合は、非正規職員の労働時間や業務内容を反映した公平な目標設定をした上で、業績・成果に対応する金額が支給されていることが必要です。
③ 労働者の勤続年数に応じて支給する場合
「勤続給」については、以下のようになります。
【問題とならない例】
〇有期雇用契約の職員に対しても、雇用契約開始時から通算して勤続年数に応じた給与を支給している。
【問題となる例】
〇有期雇用契約の職員に対して、勤続年数を反映しない給与を支給している。
⇒ 勤続給を正規職員に適用する場合は、非正規職員にも適用しなければならない、ということになります。
④ 勤続による職業能力の向上に応じた昇給をする場合
〇毎年、定期昇給をしており、その理由が「業務内容の変更」や「役職への昇進」でなく、「能力の向上」という場合は、非正規職員も対象となる。
⇒「職業能力が向上した」という理由での昇給は、非正規職員も対象となる、ということです。
以上のように基本給、なかでも最も多く用いられている「能力給」の場合、正規職員と非正規職員の待遇を分ける明確な基準が必要となり、それをキャリアパスや給与制度の中で示していくことが求められています。
ガイドラインのポイント(2)手当(賞与含む)
賞与を含む手当については、以下のような例が挙げられています。
① 業績への貢献に応じて賞与を支給する場合
【問題とならない例】
〇正規職員と非正規職員でも、同等の貢献があれば同額の支給をしている。
〇正規・非正規かかわらず、業績・成果が未達成の場合のペナルティが課せられている職員には賞与を支給しているが、そうでない職員には支給していない
【問題となる例】
〇正規と非正規の違いを理由として、同じ貢献があっても給与額に差をつける。
〇正規職員には貢献内容にかかわらず全員に支給しているが、非正規職員には支給されていない。
⇒ 賞与も、正規職員に支給するのであれば、同じ根拠をもって非正規職員にも支給する必要があります。
② その他手当について
役職手当、特殊業務手当、皆勤手当、地域手当など、正規職員に支給している手当は、同じ理由があれば非正規職員にも支給しなければなりません。
賞与を含む手当の支給理由を明確にして、正規職員と非正規職員との待遇差をなくすことが求められています。
ガイドラインのポイント(3)福利厚生等
基本給や手当といった金銭的な待遇に加えて、福利厚生や教育訓練などについても正規職員と同等の待遇が非正規職員にも求められるようになります。
求められる具体的な対応について
では、以上で見てきたガイドラインに対応するために、園におけるキャリアパスや人事給与制度をどのように見直していく必要があるでしょうか。
次回は、具体的な対応の仕方について考えてみたいと思います。